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岡山地方裁判所 昭和43年(行ウ)5号 判決 1972年9月06日

岡山県浅口郡鴨方町大字六条院中三四六二番地

原告

栗山精麦株式会社

右代表者代表取締役

栗山好幸

右訴訟代理人弁護士

内堀正治

岡山県倉敷市玉島阿賀崎六六六番地

被告

玉島税務署長

藤原義雄

右指定代理人検事

小川英長

同検事

平山勝信

同法務事務官

石金三佳

同法務事務官

森義則

同広島法務局訟務部第一課長

岡本常雄

同岡山地方法務局戸籍課長

金沢昭治

同岡山地方法務局訟務課長

門阪宗遠

同大蔵事務官

高橋竹夫

同大蔵事務官

貞弘公彦

同大蔵事務官

広津義夫

同大蔵事務官

加藤嘉久

同大蔵事務官

西本哲夫

右当事者間の昭和四三年(行ウ)第五号源泉所得税告知処分等取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

一  被告が原告に対し昭和四二年七月二七日付でなした源泉徴収に係る所得税の納税告知処分および重加算税賦課決定処分をいずれも取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

一  主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  原告会社は昭和三七年一一月二二日もと原告会社常務取締役栗山繁昌に対し退職金五〇万四〇〇〇円を支給し、これに対する源泉徴収所得税四四八〇円を被告に納付したが、これに対し被告は原告会社が右栗山繁昌に対して支払つた退職金の額は二五〇万四〇〇〇円であるとして昭和四二年七月二七日付でさらに源泉徴収に係る所得税一八万五八四〇円の納税告知処分および重加算税六万四七五〇円の賦課決定処分をした。

(二)  しかし右各処分は前記事実を誤認してなされた違法な処分である。

(三)  そこで原告会社は被告に対し昭和四二年八月二一日付で異議申立をなし、右申立は同年一一月二三日広島国税局長に対する審査請求とみなされ、同国税局長は昭和四三年三月九日付で右審査請求を棄却する旨の裁決をなし、同月一四日原告会社に対しその旨通知した。

(四)  しかし前叙の如く前記各処分はいずれも違法であるのでこれが取消を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)の事実は原告会社が栗山繁昌に対して支給した退職金の額が五〇万四〇〇〇円であるとの点を否認し、その余はすべて認める。

(二)  同(二)の事実を否認する。

(三)  同(三)の事実を認める。

三  抗弁

(一)  原告会社は精麦業を営むものであるが、被告の調査によると、原告会社のもと常務取締役栗山繁昌に退職金として公認帳簿に記載のある五〇万四〇〇〇円のほかに、遠藤栄一商店との通謀による原麦の架空仕入によつて蓄積した簿外資産のうちから二〇〇万円を支払つておりながら右事実を隠蔽し、これに対する源泉徴収に係る所得税を法定納期限までに納付しなかつたことが判明した。

(二)  そこで、被告は、栗山繁昌の勤続年数が一三年で退職時の年令が四〇歳以下であることから昭和三七年法律四四号による改正後の所得税法三八条の二第一、三項、九条一項六号イ、右改正附則三条一項、同附則別表第三によつて算出した退職金合計二五〇万四〇〇〇円に対する源泉徴収に係る所得税一九万〇三二〇円から原告会社において既に納付済みの四四八〇円を差引いた差額一八万五八四〇円につき納税告知処分をなし、併せて国税通則法六八条三項によつて算出したこれに対する重加算税六万四七五〇円の賦課決定処分をなした次第である。

(三)  従つて被告のなした右納税告知処分および重加算税賦課決定処分はいずれも適法な処分である。

四  抗弁に対する認否

(一)  抗弁(一)の事実のうち、原告会社が精麦業を営むものであることを認め、その余の事実を否認する。前叙の如く原告会社が栗山繁昌に支払つた退職金は前記五〇万四〇〇〇円以外に存しない。

(二)  同(二)の事実のうち、栗山繁昌の勤続年数が一三年であり退職時同人の年令が四〇歳以下であつたことを認める。

第三証拠

(原告)

一  甲第一号証を提出し、証人栗山静夫、同久山縁、同栗山章子の各証言および原告代表者栗山好幸本人尋問の結果を援用した。

二  乙第一号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める。

(被告)

一 乙第一ないし第三号証、第四号証の一ないし三、第五、六号証の各一、二、第七、八号証を提出し、証人叶昭三および同永田樟男の各証言を援用した。

二 甲第一号証の原本の存在、成立ともに不知。

理由

請求原因(一)の事実中原告会社が栗山繁昌に支給した退職金の額の点を除くその余の事実および(三)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

そこで原告会社が栗山繁昌に対して支払つた退職金の額について以下検討する。

原告代表者栗山好幸本人尋問の結果によつて原本の存在成立を認める甲第一号証、証人叶昭三の証言によつて成立を認める乙第一号証、成立に争いない乙第三号証、第四号証の一ないし三、第五号証の一、二、第六号証の二、第七、八号証、証人叶昭三、同永田樟男、同栗山静夫(後記措信しない部分を除く。)、同久山緑(前同)、同栗山章子(前同)の各証言および原告代表者栗山好幸本人尋問の結果(前同)に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

原告会社は代表者栗山好幸を中心とする同族会社であり、栗山繁昌は右栗山好幸の実弟として昭和二五年八月創立後間もない原告会社に入社し、以来兄栗山好幸と協力して原告会社の発展に尽してきた。同人は入社後間もなく原告会社の常務取締役に就任し、退職までその地位にあつたが、栗山好幸が昭和三五年一二月頃から商人にも秘して取引先の遠藤栄一商店と通謀のうえ原麦の架空仕入を計上し、その支払代金をもつて架空名義の定期予金をして簿外資産を蓄積したり、栗山繁昌を重用せず、かつ性格的にも不一致の点があつたことから次第にその仲も円満を欠くに至つた。このため同人も独立して事業を始めようと考え、昭和三七年一〇月頃原告会社を退職したが、その数ケ月前から原告会社の営業目的の一部である接着剤の製造販売を始めたいと言明しており、それは原告会社の営業と競合するので飜意するのが望ましいとする兄弟達の練言にも耳を傾けず、その人間関係は益々険悪なものとなつた。

ところで原告会社には役員に対する退職金支給規程がなく、従業員に対する退職金支給規程によつて算出すると退職金は五〇万四〇〇〇円にしかならないことから、同人は既に栗山好幸とは不仲となつていたため兄の栗山静夫や姉の久山緑を介して栗山好幸に対し援助を求めた。これに対し栗山好幸は同人が原告会社と競業する接着剤の製造販売事業を始めようとしていたため当初これに応ずることを渋つたが、結局同人の原告会社に対する長年の功労を考慮し、退職金として従業員に対する退職金支給規程による五〇万四〇〇〇円のほかに二〇〇万円を加算して支払うこととなり、昭和三七年一一月二二日原告会社において栗山静夫らを介して同人に現金二五〇万四〇〇〇円を支払つた。

以上のとおり認められ、証人栗山静夫、同久山緑および同栗山章子の各証言および原告代表者栗山好幸本人尋問の結果中、前記認定に反し、栗山繁昌が原告会社を退職するに当つて受領した二五〇万四〇〇〇円のうち二〇〇万円は、退職金ではなく栗山繁昌が独立して事業を始めるにあたつて栗山好幸が個人的に栗山繁昌を援助する趣旨で手渡したものであるとする部分は以下の理由からしてたやすく措信することができず、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

1  前記認定のとおり、栗山繁昌が原告会社を退社した当時、同人と栗山好幸との間には営業上の意見の対立や性格の不一致から深い溝を生じており、しかも同人は退社後原告会社の営業目的の一部である接着剤の製造販売を営む旨言明していたのであるから、栗山好幸が栗山繁昌の将来を援助する趣旨で個人的に二〇〇万円もの大金を同人に贈与することは首肯し難い。

2  前記認定のとおり栗山繁昌は原告会社に長年勤務しており、昭和二九年頃からは常務取締役の地位にあつて原告会社の発展に協力してきた者であるが、前掲各証拠によると原告会社は業績不振の会社ではないのに退職当時同人に対し従業員としての月額五万六〇〇〇円の給与と年額二五万円の賞与を支払つていただけで役員報酬を支払つていないことからすると(他に右認定に反する証拠はない。)、退職金が五〇万四〇〇〇円のみというのは少額に過ぎると思われる。

3  つぎに本件二〇〇万円の出所について、証人栗山静夫は、うち二〇万円については自分が栗山好幸に貸与えたものであるが、その余については知らないと述べ、証人久山緑および同栗山章子は、うち二〇万円は栗山好幸が栗山静夫から借受けたが、その余の金員のうち一二〇万円は、栗山好幸が従来数回に亘つて久山緑に藺草の加工販売資金として貸付けていた貸金の返済を受けたものであると述べ、原告代表者栗山好幸は、右金員は栗山静夫から借受けたり、久山緑から返済を受けたものでなく、自己の手許にあつた手持金であると述べ、右二〇〇万円の出所についての供述が互いに矛盾している。前掲証拠は以上の次第でにわかに措信できない。

前記認定事実によると、原告会社は栗山繁昌に対し裏退職金二〇〇万円を支払つておりながら右事実を隠蔽し、法定納期限までにこれに対する源泉徴収に係る所得税を納付していないことが明白である。

しかして栗山繁昌の勤続年数が一三年であり、その退職時の年令が四〇歳以下であることは当事者間に争いがないから、昭和三七年法律四四号による改正後の所得税法三八条の二第一、三項、九条一項六号イ、右改正法附則三条一項、同附則別表第三により、栗山繁昌が原告会社から支給を受けた前記退職金二五〇万四〇〇〇円に対する源泉徴収に係る所得税額を算出すれば、その金額は一九万〇三二〇円となり、右金額から原告会社において既に納付済みの四四八〇円を差引いた差額が一八万五八四〇円となり、また国税通則法六八条三項によつて算出するとこれに対する重加算税が六万四七五〇円となることはいずれも計数上明白である。

従つて被告のなした納税告知処分および重加算税賦課決定処分はいずれも適法な処分であり、原告の主張はすべて理由がない。

以上の次第で原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中原恒雄 裁判官 松尾政行 裁判官 渡辺温)

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